スタエフ連動企画「文章読本紹介、の紹介」の第十二回。当該スタエフはこちら。
今回紹介する本はこちら。
『薔薇の名前』『フーコーの振り子』など、緻密な巨大建築のような小説作品を書いてきた巨匠ウンベルト・エーコ。この本は四十代終盤になって小説を書き始めたエーコの、七十七歳のときの講演を本にしたもののようです。サブタイトルは「若き作家の告白」。曰く、小説家になって二十八年、五作しか発表していない自分は若手なのだそうです。
あの長大な描写の積み上げによって作り込まれる世界観がどうやって生まれたのか、著者自身によってその秘密が極めて論理的に解きほぐされて行きます。エーコという人はもともと学者で、小説を書くまでに多くの論文を発表してきた人なので、創作理論についてもその全貌を完全に理論的に説明できるのですね。どうやって得た着想をどのように形にしていくのか、そのために何をしたのか。逐一説明されています。あの大作がどうやって書かれたのか。その手法が惜しげなく公開されます。しかし手法が公開されたからといって同じ方法で小説が書けるのかと言えば、その膨大な準備はとても真似できるようなものではなく、精神性のどこか端の方だけでも影響をもらうのが精いっぱいのような気もします。
恐るべき巨人ウンベルト・エーコ。この本の後割と短期間で他界してしまったエーコからの、最後のメッセージのような本です。文学を志す人、あるいは文学愛好家にとって、この本は少なからぬ影響力を持つでしょう。未読のエーコ作品も読みたくなるかもしれません。
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